小児右前腕骨骨折(コーレス骨折)における観血的整復例

報告: 永冶隆宏

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【はじめに】

 紹介する症例は、無麻酔下での徒手整復、鋼線による直達牽引、全麻での徒手整復と3度の整復にもかかわらず、骨折部の転位が整復されず、観血的に切開して整復された極めてまれなケースである。
 小児の前腕骨骨折の多くは、骨の柔軟性があることから大きく転位するケースは少ないが、重度の転位があるケースでは整復が困難となるケースが存在する。この骨折の特殊性を症例報告を通じてご理解いただければと思います。

【症例報告】

(受傷時当日)
症例:
 患者は10才の女の子、学校の鉄棒より転落して手を突き受傷した。直後よりすべての指のしびれ感が生じ、他覚所見としては、フォーク背状変形、すべての指先の知覚鈍麻(約50%)が存在した。
 X線所見により右前腕両骨骨折と診断された。橈骨遠位骨片が背側に騎乗転位しており、骨折線は通常のコーレス骨折とは逆の走行となっていた。(図1:受傷時X線)

整復:
 患者をレントゲン室の撮影台の上に背臥位にさせ、無麻酔下にて整復を試みた。まず整復者1名と対牽引1名にて、ゆっくり持続的に牽引するが騎乗転位が解消されるには至らなかった。
 次に整復者2名と対牽引2名の計4名に術者を追加して牽引を行ったが、末梢骨片の掌側骨折端が中枢骨片の背側骨折端に届かないため、そのまま牽引を持続しながら末梢骨片と中枢骨片を互いに圧迫して骨片の先端を引き裂くことを試みたが、互いの骨折端は堅く破損させることはできなかった。
 腫脹の増強としびれ感が持続していることから、整形外科医の判断で入院となった。また外科的処置を視野に入れての鋼線直達牽引を行うこととなった。

鋼線牽引:
 患者をベット上に寝かせ、手関節から前腕末梢を消毒し、末梢骨片周囲に局所麻酔を行った。その後、Kirschner 鋼線を末梢骨片(橈骨・尺骨)に貫通させ、両端にガーゼと鋼線固定器(皿とネジ)、牽引弓を装着した。前腕を上方に吊るすために、牽引弓にロープを縛り、天井の滑車を経由させてロープの先に 2.5 kg の重りを付けた。対牽引のため上腕に固定帯を当て、砂袋にて固定を行った。
 数時間後、小指以外のしびれ感と知覚鈍麻が消失した。

(受傷後2日)
 鋼線牽引を行って2日目経過。小指のしびれ感もほぼ改善した。ポータブルX線装置にてX線撮影。前後像では整復されているように見えるが、斜位像では騎乗転位は残ったままであった。(図2:鋼線牽引2日X線)
 前後像において橈骨の短縮は解消されていたが、騎乗部分が解消される程の過度の牽引は期待できなかった。(図3:初診時X線と鋼線牽引2日X線との比較)
 整形外科医の判断で、後日全身麻酔にてオペの予定となった。

(受傷後7日、オペ当日)
 オペ室にて全身麻酔を行った。次に鋼線牽引用の Kirschner 鋼線の抜釘を行った。末梢神経障害の症状も改善したことから、一度屈曲整復法を行うこととなった。骨片の先端の引っ掛かりを解消するには、骨片の過度の背屈矯正が必要になると予想されたが、尺骨の骨膜性連続が保たれているため、尺骨骨片の転位の拡大を無視して思い切った矯正をするのはリスクが大きいと判断し、尺骨の状態を把握しながら可能な範囲での矯正を行うこととなった。
 外科用アーム式イメージで確認しながら、末梢骨片を背屈位へ矯正し、母指で骨折端を強く圧迫することを試みたが、やはり尺骨の骨折部が連動しないため、実際には末梢骨片の背屈は行えず整復を断念した。
 その後、消毒して橈背側から約5センチ切開し、骨折部を確認した。橈背側の骨膜は損傷されておらず連続性を保っており、末梢骨片は骨膜下に入り込んでいた。
 整形外科医は直視下に骨片を整復しようと試みたが整復されず、引っ掛かりを起こしている中枢骨片の背側骨折端を、骨鉗子および骨ノミにてカットし、橈背側より斜めから末梢骨片を指で強引に押し込み整復した。
 その後、イメージ下にて整復位を維持し、骨端線を避けるように背側より経皮的に Kirschner 鋼線にてピンニングを行った。(橈骨に2本、尺骨に1本)
 切開部を縫合後、前腕回外位にて上腕ギプス固定を行った。(図4:オペ後X線)

(オペ後9日) 上腕ギプス巻き直し

(オペ後11日) 退院

(オペ後3週)
 上腕ギプス巻き直し。X線撮影にて仮骨あり。(図5:オペ後3週X線)

(オペ後4週)
 ギプスカットして上腕シャーレへ X線撮影するが、骨折部の癒合はまだ弱い。観血的整復のケースでは、オープンして血腫を洗浄してしまうので、通常癒合は遅れる場合が多い。ヒーラー(スチーム加熱)開始。軽度の自動介助運動開始。手関節可動域は伸展0°、屈曲10°、回旋はまだしない。肘関節は伸展−45°

(オペ後6週)
 X線撮影にて癒合がしっかりしてきたため抜釘し、活動時は前腕シャーレとした。前腕の回旋運動開始。回内−40°(図6:オペ後6週X線)

(オペ後7週)
 肘関節の可動域は改善。手関節は伸展30°、屈曲45°、回内45°

(オペ後8週)
 手関節可動域は伸展35°、屈曲55°、回内60°握力は健側15kg、患側6kg シャーレ除去、まだ体育は禁止。

(オペ後3カ月)
 X線撮影にて骨癒合。手関節の可動域、握力も改善。体育許可。治癒とした。(図7:オペ後3カ月X線)


【考察】

(小児コーレス骨折の特殊性)
 小児が手を突いて転倒し橈骨下端部が骨折する場合、ほとんどが若木骨折となる。今回のケースのように、大きな外力が加わった場合は、骨の屈曲により圧迫された背側の骨が押しつぶされ、成人の骨折とは逆に背側より掌側へ骨折線が進行し、掌側の骨膜が断裂する。その後、損傷されていない背側の骨膜が骨質より剥離されて背側骨膜の下に末梢骨片が入り込むケースがある。
 このような場合、骨折線が通常のコーレス骨折と逆の走行になり、牽引では整復されず、整復が困難になることが以前より指摘されている1)(図8:小児の騎乗転位)

(屈曲整復法について)
 対処法としては、屈曲整復法が有力であるが、まずは牽引して直圧する方法を試してみるというのが大方の意見であると思われる。実際には、騎乗部分が解消される程の過度の牽引は期待できなかった。牽引により骨折部の前後像が矯正されたため、かえって骨折部の騎乗面積が大きくなり、整復を困難にさせる結果となった。
 今回のケースのように、背側の骨膜が損傷されていない場合や騎乗が大きい斜骨折の場合は、過度の背屈矯正、及び骨折端への強い圧迫により整復される場合があると言われている。この症例では尺骨の連続性が存在したために末梢骨片の背屈が制限され、整復を行うことはできなかった。

(三次元的に理解する必要性)
 我々柔道整復師は教科書的に牽引直圧や屈曲整復を基本的な整復法として学び、日常の業務においても、多くの場合は解決することが多い。しかし、今回のケースのような特殊な症例に遭遇することもある。
 観血的整復を行った際、一部骨片をカットしたが、最終的に骨片を背側からでなく背橈側より斜めに押し込むことで整復された。小児コーレス骨折の特殊性を理解したうえで、骨折端を三次元的に理解すれば、受傷時の橈側転位した状態のまま橈側への屈曲整復を行うなどの他の対処法が見いだされたのかもしれない。その場合、結果が変わっていた可能性もあると推測している。

(その他の整復障害)
 今回の症例とは関係がないが、その他に考えられる橈骨遠位端骨折の整復障害として、掌側側の破損した骨膜断端が嵌頓していたり、方形回内筋の嵌頓の例もあり2)、整復不能例は例外的ではなく、念頭に入れておく必要がある。(図9:その他の整復障害)


【まとめ】

・小児右前腕骨骨折(コーレス骨折)に対し数回にわたり徒手整復を試みるが、橈骨の騎乗転位が解消されず、結果的に観血的に整復された。
・小児の橈骨遠位端骨折において、骨折線が通常のコーレス骨折と逆の走行で、背側の骨膜が損傷されないといった特殊なケースが存在する。これらのケースでは牽引しても整復不能のことがある。
・屈曲整復法の適応は横骨折であるが、騎乗転位例に応用することが言われている。今回のケースでは尺骨の連続性が存在したために骨片の背屈が不能であった。
・観血的整復の際、骨片を背橈側より斜めに押し込むことで整復されたことから、骨折端を三次元的に理解する必要性を感じた。

【参考文献】

1) Ronald McRae: 図説骨折治療の進め方. 小野啓郎(監訳), 医学書院, p147, 1987
2) P. Chrestian: 図解小児の骨折. 井原和彦(訳), 協同医書出版社, p130-131, 1991.

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