橈骨遠位端部骨折 - Dorsiflexion 固定による1例の経過 -

報告: 山本啓司

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【はじめに】

 今回報告する症例は、橈骨下端部骨折を徒手整復後 Dorsiflexion 固定 (Ajay Gupta, 1991) 1) で経過をみた1例で、初回整復固定後約4週で再転位してしまったものである。骨折部が比較的安定してくると思われる時期に再転位したことについて経過観察資料を元に検討する。

【症例】

 49才、男性。サウナ勤務。仕事中に転倒し右手を地面に突いて受傷。受傷直後に当院来院。既往症、内科的疾患なし。

(初診時)
 X-P にて橈骨下端部骨折で Melone の分類 Type 3 様と診断 (図1: 初診時 X-P)
腫脹が高度であったため骨折部に対牽引後、上腕から MP 関節までクラメル副子固定を施行、数日後に腫脹が落ち着いた時点でシリンダーギプスを巻くことになった。

(受傷後3日)
 腫脹低下が認められたので、屈曲整復法にて徒手整復し、直ちにプラスチックギブスで上腕から MP 関節まで、dorsi flexion 固定を施行(図2:dorsi flexion 固定) (図3:整復固定後 X-P)

(受傷後7日)
 腫脹軽減確認。若干の肢位変更のため上腕から MP 関節までのプラスチックギブス再固定(dorsi flexion)を施行。このとき遠位骨片が橈側に変位しないように尺側へのシフトを強化した。X-P にて転位がないことを確認した(図4:固定後 X-P)

(受傷後2週)
 疼痛なし。軽度の転位を認めた(図5:受傷後2週 X-P)。将来、機能的問題を残すほどの転位ではないと判断し、そのままの固定を継続した。

(受傷後4週)
 腫脹軽減。疼痛なし。ミュンスターギブス固定に変更。固定肢位はこれまで同様に dorsi flexion とした。2週経過時点に比べ橈側方向に若干の転位が認められた(図6:受傷後3週 X-P)

(受傷後4週)
 ミュンスターギブスを切割し、掌側シャーレ固定とした。この4日後に患部の疼痛ともに腫脹と発赤を発生。しかし再転位を生じさせるようなことは思い当たらなかった。

(受傷後5週)
 腫脹と発赤は軽減。橈骨の短縮と背屈転位を認めた(図7:受傷後5週 X-P)

(受傷後7週)
 疼痛なし。プライトン背側シーネに変更。再転位なし(図8:受傷後7週 X-P)

(受傷後9週)
 疼痛なし。シーネ除去し包帯固定とした。

(受傷後10週)
 疼痛なし。包帯除去。


【まとめ】

 本例は初診時の X-P からは、まさかこのような結果になろうとは思いもしなかったというのが正直なところであった。整復固定後から受傷後2週で若干ではあるが再転位を示した事に注意が必要であり、このように再転位が生じ得ないシリンダー固定の状態で再転位が観察された場合、Dorsiflexion 固定の適応について再判断する必要があると思われた。報告した例では受傷後約4週で思いもしない再転位を生じせしめたが、経過資料から、ちょうどこの時に、掌側のシャーレ固定に変更していることがわかる。Dorsiflexion 固定を切割しシャーレにすると、手関節にその固定原理である患部のモデリングとその時に加える力の作用がなくなってしまいおのずと単なる手関節背屈位になることに注意が足らなかったと反省している。この時期において背屈位シャーレ固定は不適切だったと考えられた。Dorsiflexion 固定はギプスを巻く操作に熟練を要することは言うまでもないが、その効力はシリンダー状の時に発揮されると考えられ、安易に切割しシャーレにしたことが今回のような結果になったと思われた。今後は、Dorsiflexion 固定の適応範囲も考慮しながらシャーレ固定の活用について細心の注意を払いたいと思う。

【参考文献】

1)Ajay Gupta , The Treatment of Colles Fracture , JBJS, 73-B, 312-315, 1991

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