上腕骨近位骨端線損傷に対する保存的治療

報告: 中村宗成

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【はじめに】

 過去に経験した小児、上腕骨近位骨端線損傷の2症例を紹介します。共に Salter-Harris の分類 II 型、Neer の分類の grade III 以上で典型的な前方凸、外方転位を示した症例です。両者とも無麻酔下にて徒手整復、外転位ギプス固定施行し医接連携にて治療を行いました。予後に関しても変形治癒、骨端線閉鎖もなく良好な経過を得られましたので報告します。このような例でも通院加療できる場合がある事について注目いただければと思います。

【症例】

(症例1)
9 才、男性
受傷機転: 3 段ベッドの最上段より転落、右手を付きそのまま右肩も強打し受傷した。接骨院受診後、当院へ紹介となった。
X線所見:正面像・軽度内転、外方転位。
     側面像・前方凸転位、angulation 約 40 度。(図1:初診時X線)
     Salter-Harris の分類 II 型、Neer の分類 grade IV と思われた。(図2:骨端線損傷の分類)
特記事項: 右手関節に Smith 型骨折も合併。紹介いただいた接骨院との連携治療を行った。

(症例2)
13 才、女性
受傷機転: 自転車にて走行中にバイクと接触し右肩より転倒し受傷。右肩部に擦過傷がある為に直達外力と思われた。
X線所見:正面像・外方転位
     側面像・前凸前方転位、angulation 約 70 度。(図3:初診時X線)
     Salter-Harris の分類 II 型、Neer の分類 grade III
特記事項: 患者住所近くの接骨院との連携治療を行った。


【整復操作】

(症例1)
 患者仰臥位にて、肩関節軽度外転位、前腕回外位にて術者が長軸上に牽引を加え、助手はその間、中枢骨折端を把持し、前方挙上を行うため、手を持ち替える。その間、必ず長軸上への牽引は持続した。(図4:整復操作)
 牽引を持続しながら、術者の右手をてこの原理を応用して、いわゆるしゃくり上げる様に上腕骨を前方挙上させた。保持者は必ず、中枢骨折端(骨頭部)が挙上しないように下方向へ押さえた。そのまま最大挙上の位置まで整復操作を行った。(図5:整復操作)

(症例2)
 症例2に関しては転位状態から後方骨膜の損傷度が少ないと判断し、後方骨膜を利用し整復するため健側方向へ最大挙上した。(図6:整復操作)
 その後、骨折部を術者が把持しながら Zero position の位置まで戻し、整復操作を完了した。整復時の末梢神経、血管の損傷を考慮し(即時判断するため)無麻酔下で、愛護的に行った。


【ギプス固定】

(症例1)
 初診整復後のレントゲンにてangulation 、外方転位も整復されギプス固定施行。(図7:整復後・固定後X線)
 肢位:整復後坐位にて肩関節 Zero position 軽度外旋位、肘直角位(敬礼位)にて体幹〜MP関節まで行った。(図8:ギプス外観)
ギプス施行時注意点
・側弯症の原因やギプスによって褥創となり易い為、体幹は必ず垂直の姿勢にて行った。
・患側の外転挙上を維持するために患側側の体幹部は必ず腸骨にかけた。
・呼吸が困難となるため体幹を巻く際には、比較的緩く巻いた。
・再転位防止の為、上腕骨頚部前方部の○部分はギプスが浮かないように注意した。
・神経、脈管障害の原因となる為、ギプスに凹凸となる部分が無いように注意した。

(症例2)
初診、整復後レントゲンにて整復位良好にてギプス固定施行。症例1と同様の肢位にてギプス固定を行った。(図9:整復後X線)


【経過】

(症例1)
 受傷後約 1 W 後の経過レントゲン側面像にて前方凸の再転位が認められた。同日再整復を行いギプス固定。(図10:1W後X線・再整復後X線)
 初診時ギプス固定時に上腕骨頚部前方部に浮きがあった事、肘関節が鈍角になっていたことが再転位の要因になったのでは思われた。
 受傷後約 4 W 経過(再整復後 3 W)。仮骨が旺盛に認められた。ギプス除去し肩麦穂帯、三角巾固定へ変更。
 受傷後約 5 W よりプーリー運動、自動での水平屈曲、伸展運動開始し受傷後約 7 W にて肩関節可動域制限なく経過良好と思われた。(図11:6W後X線)
受傷後約 2Yにて健側との比較レントゲン写真撮影。骨折部の remodeling、骨端線閉鎖もなく良好と思われた。(図12:2Y後X線)

(症例2)
 その後再転位も無く、受傷より約 2 W 経過の時点にて、関節拘縮を考へ、上肢を尺側のシャーレ状にし管理下にて肘関節自動的に屈曲運動開始した。再転位防止のため伸展運動は禁止とした。(図13:ギプス外観)
 受傷後約 3 W 経過、仮骨が認められ、肩麦穂帯、三角巾固定に変更し、受傷後約 5 W にてすべて固定除去、挙上約 120 度可能であった。前額面より後方への運動は禁止した。
 受傷後約 6 M、骨癒合、骨端線共に問題なく経過良好であった。(図14:6M後X線)


【まとめ】

 現在、上腕骨近位骨端線損傷についての転位の許容範囲は、 angulation に対して 15 度 〜 45 度、横転転位については骨幹部の幅に対し約 50 % までと報告者により一様でなく、整復に対しても入院下にて持続的牽引法(over head traction)や Neer の分類による grade III 以上は観血的治療の適用など様々であり見解は一致していない。
 整復不能因子(過去に報告されている上腕二頭筋長頭腱の骨折部への陥入など)や神経損傷、開放性骨折を除き Neer の分類 grade III 以上の転位においても、骨膜の状態などを考慮することにより徒手整復、外来通院、医接連携による加療が可能と考えられた。

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