腰椎椎間板ヘルニアにおいて異なる高位、L3/4 間と L4/5 間の2椎間のヘルニア(ダブルヘルニア)により、観血的に後方髄核摘出術(Love 法)を行った症例を報告する。術中所見において、L3/4 間においては後縦靱帯ごと大きく膨隆し、馬尾神経および L4 神経根が強く圧迫されていた。L4/5 間における ヘルニアでは L5 神経根への圧迫は少なかった。術中所見と各種画像診断との照合、及び臨床症状の経過を検討した。
(受診当日)
患者: 49才男性、
原因: 1週間前、原因なく右殿部痛が徐々に出現し、来院前日より、動作時激痛となった。仕事はデスクワークだが歩くことも多く、勤務も続けていた。
既往歴: 過去腰痛は時々あったがすぐに治った。
X線: L3/4 間と L4/5 間の椎間板後方に狭小化。(図1: 腰椎X線)
自覚的所見: 腰部痛なし。右殿部と右下腿外側の疼痛。殿部より大腿後面のしびれ感。
他覚的所見: 屈曲30°伸展10°で右殿部痛。疼痛回避姿勢なし。Kemp (+)。右 FNST にて右殿部痛。SLR 右80°にて右殿部痛。足趾筋力正常。下腿内側の知覚鈍麻(50%)。PTR 低下、ATR 正常。Valleix 圧痛 (+)。
診断: 腰椎椎間板ヘルニア(高位は L3/4 間か L4/5 間)
処置: 硬膜外神経ブロック、入院となり持続牽引4kg にて安静臥床(セミファーラー肢位)。トイレは歩行器にて可能。(入院1週)
安静時痛 (−)。右下腿外側痛軽減したが、起立時や歩行時、腰部伸展時は右殿部痛強い。しびれ感が大腿後面から下腿外側へ拡大。下腿内側の知覚鈍麻は不変。理学療法開始(マイクロ・干渉波)。
MRI 検査: L3/4 間と L4/5 間の後方突出像あり。L3/4 間の方がヘルニア塊は大きい。(図2: 腰椎 MRI 画像)(入院3週)
右殿部痛軽減。しびれ感 (−)。知覚鈍麻 (−)。Kemp (−)。FNST (−)。SLR (−)。軽い腰痛体操指導(ストレッチと腹筋のアイソメトリック)。(入院3週と3日)退院
これより自宅から通院。仕事は復帰せずしばらく経過観察とする。(退院後2週)再発
原因なく腰部の鈍痛(ド〜ンと重い疼痛)が出現。下肢症状 (−)。次の日より大腿後面から下腿外側へのしびれ感と下腿内側と前面の知覚鈍麻が出現。(退院後3週と2日)再入院
腰部の鈍痛は消失したが右殿部痛が強くなり、再度入院。起立時や歩行時、腰部伸展時は右殿部痛強い。しびれ感と知覚鈍麻も不変。右 FNST にて右殿部痛。SLR (−)。持続牽引4kg にて安静臥床(セミファーラー肢位)。(再入院4週)
右殿部痛は安静のため多少軽減したが、下肢症状は不変。動作時や歩行時に右殿部痛 (+)。
初回入院時から2ヶ月半経過したが、社会復帰困難なため手術を視野にミエログラフィーを行った(髄液のあるくも膜下腔に造影剤を注入)。
ミエログラフィー検査: L3/4 間で Cut 像が見られ、L4/5 間では多少の狭窄が見られた。2週間後(初回入院より3ヶ月)をめどにオペを薦める。(図3: 腰椎ミエログラフィー画像)(再入院6週)手術当日
手術は L3/4 間及び L4/5 間の2箇所に対して後方髄核摘出術(Love 法)が行われた。術中体位は腹臥位で四つん這いの姿勢にて行われ、まず傍脊柱筋群(背最長筋・多裂筋)を棘突起より切離して、次いで椎弓板より骨膜下に剥離する。視野拡大のため部分的に椎弓を切除し、同時に椎弓間の黄色靭帯も切除した。L3/4 間においては、後縦靱帯ごと大きく膨隆しており、馬尾神経およびL4 神経根が強く圧迫されていた。ヘルニア膨隆部の後縦靱帯を切開してヘルニアを摘出した。L4/5 間においては、膨隆は見られたが、神経根への圧迫は少なかった。L3/4 間で 2.9g 摘出し、L4/5 間では1.7g 摘出した。(図4: 摘出ヘルニア組織)術後はあらかじめ用意していたギプス床にて安静臥床とし、翌日より体位変換を開始。(図5: ギプス床)
(手術後1週)
手術翌日よりしびれ感と知覚鈍麻が減弱し、オペ後1週の時点ではしびれ感 (−)、知覚鈍麻(10%)。ギプス床除去。ベッドのギャッジアップを開始し、徐々に増加させた。(手術後2週)
コルセットにて座位訓練。下肢症状 (−)。切開部周囲の疼痛のみ。(手術後3週)
歩行器にて歩行訓練開始。SLR (−)。FNST (−)。腰殿部痛 (−)。(手術後1ヶ月)
経過順調にて退院。(手術後2ヶ月)
仕事に復帰。時々腰部に鈍痛がある程度。
腰椎椎間板ヘルニアに対する治療の原則は保存的療法と言われている。その理由としては、長期経過観察の結果から手術的治療と保存的治療の成績結果に有意な差がなく 1) 、MRI の追跡によりヘルニアの自然消失例が多く紹介され 3) 、神経根自体の慢性圧迫に対する防御機構、耐性の構築によりヘルニア塊の大きさが変化しないうちに症状が消失する例が報告 2) されていることなどが挙げられる。
また、ヘルニアを含む腰痛症全体の自然治癒率を調査した報告においては、全体の 50%〜60%は2週間以内に治癒、90〜95% は3〜4ヶ月以内に治癒し、6ヶ月以上治癒しないものは全体の 5% であったとしている 5) 。
膀胱直腸障害等の緊急性を要するケースを除き、まずは保存的に経過を観察することがスタンダードとなっている。最近の手術的治療の分野においては、小侵襲の治療手技として椎間板内療法(蛋白分解酵素や食塩水注入など)や経皮的髄核摘出術、レーザー蒸散法などの中間療法の開発が進み、治療体系が見直されつつある 3) 。しかし、ヘルニアの脱出形態や患者年齢も多様であり、中には保存的療法に反応しない症例が存在する。また中間療法は適応が限られ、術者の技術的問題もあることから、難治性の症例に対しては後方髄核摘出術、いわゆる Love 法が一般的に行われている。
今回の症例においては、入院による保存的治療で症状が改善し、一旦は退院したが、すぐに再発し再入院となった。再入院後の改善は思わしくなく、本人の強い希望により後方髄核摘出術が行われた。経過に関しては満足のいく結果が得られた。
通常は1週間程度で起立・歩行が許可し、2〜3週で退院、1ヶ月〜2ヶ月経過で軽作業可、3〜4ヶ月経過で通常の労働に復帰するのが一般的である 1, 4) が、今回紹介した症例は手術侵襲が2椎間に及んだため、歩行訓練開始まで3週を要した。2椎間が有症候である症例は、画像診断でみられるほど多くなく、非常に稀であると言われている 1) 。報告した症例においては、MRI による画像診断や臨床症状から、2椎間のヘルニア(ダブルヘルニア)の存在が指摘された。しかし、ミエログラフィーにおいては L3/4 間においての高度の圧迫が明らかになり、術中所見においては L3/4 間において馬尾神経を含む L4 神経根への高度の圧迫が存在し、L4/5 間においての圧迫は少なかったことが判明した。
ダブルヘルニアと考えられていた臨床症状は、L4 神経根の単根性障害、もしくは L3/4 間の馬尾神経圧迫により多根性障害を引き起こしていた可能性があると推測された。例えば L4/5 間においてのヘルニアは非症候性椎間板ヘルニアであった可能性もある。MRI により非症候性のヘルニアが多く存在することが指摘されていることや、機械的圧迫の神経根障害発生の閾値は 50mmHg 前後と言われている 2) ことからも、神経根に対する機械的圧迫は必ずしも症状に関与していないことが示唆されている。しかし今回の例では、L4/5 間においてのヘルニアが、必ずしも非症候性であったとは断定できないと考えている。馬尾神経は末梢神経と異なり2ヶ所で圧迫されると低い圧(10mmHg程度)でも容易に血流低下をきたすことが言われている(Double-level compression) 2, 5) 。また、神経根の栄養供給の約6割は脳脊髄液より行われている 2) ことからも、L3/4 間においての高度の圧迫により脳脊髄液の潅流障害が発生し、L4/5 間においてのヘルニアにて L5 神経根障害を引き起こしていた可能性は否定できないと考える。
・2椎間のヘルニアが疑われ、観血的に後方髄核摘出術(Love 法)を行った症例を報告した。
・一般的な腰椎椎間板ヘルニアの治療について文献上より紹介した。
・症例における各種画像診断、臨床症状、術中所見より神経根障害高位について考察した。
1) 渡辺栄一ほか: 腰椎・腰仙椎. 整形外科手術7-A 脊椎の手術 I (黒川高秀編). 118-128, 中山書店, 東京, 1998
2) 佐藤勝彦: 神経根と痛み. 日整会誌 73: 195-202, 1999
3) 土方貞久: 腰椎椎間板ヘルニア. 今日の治療指針 (多賀須幸男編). 646-647, 医学書院, 東京, 1999
4) 蓮江光男: 腰椎椎間板ヘルニアに対するいわゆる Love (変) 法. 整形外科手術クルズス (津山直一ほか監). 185-189, 南江堂, 東京, 1996
5) 白土 修: 腰痛・下肢痛の保存療法. 腰椎の外来 (越智隆弘ほか編). 90-91, メジカルビュー, 東京, 1997